これまで関わってきた子どもたちの中にオスグッド病に悩んでいる子どもたちを見てきました。試合に出たいのに…練習したいのに…全力でプレーしたいのに…痛みで自分の思うようにできない子どもたちの姿を見てきました。
「サッカーがしたい!」、「プレーをしたい!」という子どもたちの思いを受け止めることはとても大切なことです。しかし、痛みがあるにも関わらず、子どもたちにプレーさせてしまえば、さらに悪化するリスクがあります。痛みをごまかしながらプレーし続けることによって、重症化や長期化につながってしまうのが、このオスグッド病の怖いところだと感じています。
痛みの長期化によって、サッカーからの離脱が長くなってしまったり、よくない動きが身についてしまったり、気持ちがモヤモヤしてしまったりと、二次的な問題にぶつかってしまうこともあります。
しかしながら、オスグッド病は大人が正しい知識を持ち、子どもたちに教育しながら、適切に関わっていけば、予防できます。また、痛みが出てきた場合でも、適切な処置と対応を行えば、かなりの確率で症状を緩和することができ、復帰を早めることもできます。
私が学んだことや経験したことをシェアすることにより、1人でも多くオスグッド病に悩むことなく、サッカーを楽しめる子どもたちを増やし、守ることのできる環境づくりにつながればいいなと考えております。
オスグッド病とは
オスグッド病とは、正式には「オスグッド・シュラッター病」と言います。オスグッド病は、スポーツ活動などによる使い過ぎが原因で起こる骨の成長によるスポーツ障害です。 大腿四頭筋の柔軟性が低下し、脛骨粗面に負担がかかって発症します。
膝のお皿の下あたりに、脛骨粗面(そめん)という骨が隆起した部分がありますが、この骨が少しずつ突出し、痛みが発生した状態を指します。
痛みが発症すると、1週間で治ることもあれば、2〜3ヶ月かかることもあります。長くなると、6ヶ月異常となるケースもありました。症状が確認されたら、医療機関で専門医に受診していただくことをおすすめします。私が指導者の経験からお伝えできることとしては、医療機関でオスグッド病の受診を受け、痛みがある場合は決して無理をさせないよう、大人が子どもに伝えることです。
子どもたちはやはりサッカーがしたい、スポーツがしたいですから、「これくらいなら大丈夫!」と言ってプレーしようと子どもが多いかもしれません。しかし、ここで「じゃあ、やってみよう!」と許可してしまうと、それが引き金になり、痛みが長期化していきます。
大人が正しい知識をもった上で、子どもたちの症状を見ながら、的確に関わっていくこと以外に、オスグッド病を防ぐ、オスグッド病の症状を悪化させない方法はないと思います。もしわからなければ、医療機関のサポートを得ることも重要だと思います。
その上で、子どもたちにもオスグッド病との付き合い方を指導していくことも必要だと考えています。
オスグッド病との付き合い方で最も重要なポイントは、
①痛みがあるときは無理をしないこと、
②自分で「プレーできるかどうか?」を確認できる簡単な基準を与えること、
③アフターケアを怠らないこと、
の3点だと考えています。
以下、この3点についてお伝えします。
オスグッド病について、詳細を知りたいという方は以下のページを参考にしてみられたらいかがでしょうか?
ZAMST(ザムスト)「オスグッド・シュラッター病」
OMRON(オムロン)「痛みwith」
①痛みがあるときは無理をしないこと
オスグッド病を悪化させないようにする方法としては、これに尽きると思います。痛みがあるときは、無理をせず休むことが初期段階で最も大切なことです。そして、それ以上オスグッド病を悪化・進行させないためにも非常に重要なことです。
しかしながら、今までの経験からここの部分で食い止めることができず、悪化してしまったケースがとても多いと感じております。この初期段階で「まあ、大丈夫だろう…」とプレーを続けてしまうと、だんだんと痛みが「鈍化」していき、かなり悪化した状態までになってからようやく休む、という状況になってしまったのをたくさん見てきました。
だからこそ、声を大にしてお伝えしたいのは、この段階で大人がしっかりと「ストップ」をかけることです。何回か練習を休むことになりますが、その休みが子どもたちの将来を左右することになる可能性があることを認識していきましょう。そこで休ませなかったがために、将来、長期の離脱をせざるを得ない状況になってしまうことやず〜っとけがと付き合っていかないといけない状況になってしまうことは、絶対に避けたいですよね?けがとの付き合いに嫌気がさしてしまって、競技を辞めてしまう子どもたちが出ないようにしたいです。
ここを大人がしっかりと伝えていくためには、ある程度経験も必要であると思います。また、休ませるが必要なのかもしれません。決断に対して、わからない場合や不安がある場合は、専門医の力を借りたり、他の方にアドバイスを求めたりしたらよいと思います。
また、子どもたちが「痛いから休ませてほしい」ということを指導者や大人に伝えやすい雰囲気づくりも非常に重要です。けがのことだけではなく、常日頃から子どもたちとしっかりとコミュニケーションがとれているかが問われます。日々の活動で子どもたち1人1人と接する機会を意識してつくりながら、子どもたちから信頼して伝えてもらえるようにしていきたいですね。
②自分で「プレーできるかどうか?」を確認できる簡単な基準を与えること
痛みがあるかどうかは、最終的には子ども本人にしかわからないことです。大人が見ていて、痛みを感じている様子やぎこちない動きをしていることに気づいたときは、本人に尋ねてみるといいかと思います。
しかし、子ども自身が「痛み」に関して、あまり認識できていないケースもこれまで経験してきました。また、大人が外から見ていて、気づかないこともあるかと思います。そういった際に役立つのが、「痛み」の具合について、自分で確認できる基準を与えておくことであり、大人が子ども本人と一緒に確認することです。
その基準は、2つあります。
①屈伸運動をして痛みがあるかどうか?
②痛みがある方の足で片足ジャンプ(ケンケン)を数回連続して行って、痛みがあるかどうか?
①または②のいずれか、①と②両方で、本人が痛みを感じる場合は、無理させない方がよいと判断しています。サッカーでは、ジャンプや急激なストップ&ターンの動きによって、膝に大きな負担がかかります。また、キック、ドリブル、トラップなど片足で行う動作が非常に多いです。したがって、上の①、②の確認基準において痛みがあるということは、非常に膝に負担のかかるサッカーの動作によって、オスグッド病がさらに悪化してしまう可能性が高いと言えます。
痛みがある場合は、この①と②において痛みが消えるまでは安静にした方がよいと判断しています。
しかしながら、この①と②で痛みがないからといって、大丈夫という保証はありませんので、心配な場合は専門医を受診する、専門家(トレーナー)に相談することが大切だと考えております。特に重度の場合は、できるだけ早く治療をした方がよいと思います。
③アフターケアを怠らないこと
オスグッド病の原因は、大腿四頭筋の柔軟性が低下して硬くなってしまうことにあります。アフターケアについては、膝のお皿の下あたりに、脛骨粗面(そめん)という骨が隆起した部分に痛み(炎症)があるかないかでケアの仕方を変えた方がよいと考えております。
(1)痛みがない場合のアフターケア(予防)
この場合は、大腿四頭筋の柔軟性を低下させないことが最も重要です。そのために、太ももの前側を伸ばすストレッチを行うことが有効です。特に、練習・試合が終了した直後すぐに行う(固まらないようにする)、お風呂上がりの血流が良くなり筋肉がほぐれているときに行う(柔軟性を確保する、高める)の2回行うことが有効であると考えています。それと同時に、大腿四頭筋に過度に負荷がかからないように、股関節周りの柔軟性を確保していくことも大切なポイントです。
(2)痛みがある場合のアフターケア(緩和、改善)
脛骨粗面(膝のお皿の下の骨)に痛み(炎症)がある場合は、まずは炎症を押さえていくことが最も重要です。そのためには、患部をアイシング(氷で冷やす)する必要があります。アイシングをさぼらずに丁寧に行っていくことが大切です。お風呂に入るときに、氷を手で持って入って直接患部を冷やすのが簡単です。症状にもよりますが、氷で冷やす→湯船で温める→冷やす→温めるを何回か繰り返すことによって、かなり血流がよくなります。痛みや腫れがひどい場合はしっかりと冷やすことが大切かもしれません。
また、痛みがある状態で太ももの前側を伸ばすと余計に脛骨粗面に付着している筋肉が引っ張られてしまって、痛み(炎症)がひどくなる場合があるので、ストレッチは行わない方がよいようです。
ケア方法の参考ページ OMRON「痛みwith」 オスグッドの予防法と痛みを和らげるケア法
こうしたアフターケアは、ほんの少しのことです。
しかし、継続して行うか行わないかで、「結果」に大きな差が出ます。「自分のことは自分でやる」という自立・自律の力を高めていく、「自分がサッカーを楽しむため」という自己責任感を高めていくという観点で、しっかりと子どもたちに教え、伝えていきたいですね。
こういう「教育」をしっかりと行っていくことによって、サッカーだけでなく、サッカー以外にも生きる力が身につくのではないでしょうか?子ども任せにするのではなく、子どもたちと一緒に行っていく、活動後にストレッチする時間をつくるなど、よい習慣づくりを大人が一緒に行っていくことがポイントだと感じております。これこそ、まさに自分の失敗から痛感していることでもあります。
【応用編】オスグッド病を予防する
オスグッド病の予防で最も大切なポイントは、大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)の柔軟性を高めること(低下させないこと)です。
その観点で、走るフォーム、キックのフォーム、ドリブルのフォームを整えていくことがとても大切だと考えております。
私が小学生や中学生の頃は、「低い重心でプレーしよう!」と言われて、膝を深く曲げて腰を落とすように指導されてきました。しかし、この動きを身につけてしまうと、大腿四頭筋がかなり緊張してパンパンになっていきます。
わかりやすいのがキックです。ボールを遠くに飛ばそうと、強いボールを蹴ろうとして、立ち足(軸足)を深く曲げて、大きく蹴り足を振って蹴ろうとすると、大腿四頭筋にかなり負担がかかります。また「飛ばそう!!」と意気込んで、体に無駄な力が入り過ぎてしまうことによって、大腿四頭筋がかなり緊張してしまうことも多いです。
(あまり蹴り込みすぎるのはけがの原因になってしまうので、子どもたちの発達の状態によって注意が必要ですが)何度もキックを続けていくと、太ももの前側がパンパンになってしまう子どもがいます。そういったフォームを子どもたちが身についてしまうと、けがの可能性を高めてしまいます。
体の前面の筋力をガンガンに使うような動き(フォーム)ではなく、体の背面をうまく使うような動き(フォーム)を子どもたちに身につけさせていくことがけがを防ぐという観点でとても有効だと考えています。もう1つは、無駄な力は抜いて、適切なタイミングで適切な部位に力を入れることができるように、コントロールできるように指導していくこともポイントだと考えています。
そのための1番の基本は、「姿勢」です。日常生活で最も多くの時間を使っている、立っているときの「姿勢」と座っているときの「姿勢」、そして歩いているときの「姿勢」を正しく、美しく保てるようにしていくことが、怪我を防ぐために最も有効な手段です。
特に、子どもたちが起きている中で、1番長くとる姿勢は、座る「姿勢」だと思います。座っているときに、骨盤が寝てしまって(後傾してしまって)いると、体の背面をしっかりと使えるような「姿勢」が身につきません。あとは、頭が前にもたれるような前がかりな姿勢をとっていると首にかなりの負担がかかってしまいます。それを軽減するために胸が下がり、背中が丸まっていきます。これも悪い「姿勢」につながる直すべき習慣です。
骨盤(股関節)を立てて、背中を伸ばして、首を真っ直ぐにしてその上に頭が乗っかる…これが自然にできる「姿勢」が身につくと、けがを防ぐことができる可能性が高まるだけでなく、パフォーマンスも高めることができます。「たかが姿勢」と考えず、日々の生活で自分の「姿勢」を見直してほしいと願っています。
オスグッド病に悩む子どもたちをなくそう!!のまとめ
オスグッドについて、自分の知識や経験を見直し、ぜひ目の前の子どもたちがけがなくサッカーを楽しむことができるようなサポートをみんなでしていけたらいいなと願っております。私自身も、改めて記事に書いて整理することによって、自分の取り組みを振り返り、再確認することができました。
最後に私の思いをお伝えしてまとめとさせていただきたいと思います。
試合での勝ち負けや子どもたちのプレーが上達するのと同じくらい、子どもたちの安全やけがについての注意や学ぶ意識を持って活動しておられますでしょうか?
残念ながら過去の私はそうではありませんでした。どうすれば試合に勝てるようになるのか?どうしたら子どもたちはサッカーがうまくなるのだろうか?どんな練習をしたら、キックがうまく蹴れるようになるのか?そういったことにはすごく興味が湧き、そればからどんどん学ぼうとしていました。
どうしたら子どもたちのけがを防ぐことができるのか?ということは、ほとんど学びませんでした。しかし、自分のチームの子どもたちが腰痛になる子どもたちが増えるのを感じて、あるとき10年来のつきあいのあるトレーナーの方に相談したのです。すると、練習後に「クールダウン(アフターケア)」をしていないからだということがわかったのです。その方には、「練習後に3分でも、5分でもストレッチだけでも行うだけで全く変わるよ!」と教えていただきました。
すぐに、取り入れて実践してみると、本当に効果覿面(てきめん)でした!!
そのとき、こんなことにも気づかないような自分は指導者失格だと感じましたし、子どもたちの将来のことを考えることができていなかったなと反省しました。ここから、「知らないからできない」ということに気づき、けがをしないためのケアや体づくりのこと、動きのつくり方のこと、姿勢のことをなど、体のことも学び始めました。
学んでいくうちに、「知らない」からできないだけなんだということを痛感していきました。「知らない」に気づいたら、そこから学べばいいだけのことだと。それと同時に、「知らない」ことに気づかず平気なのは無責任であることにも気づきました。そして、それは子どもたちに大変な迷惑をかけてしまうと。
みなさまには、私と同じ失敗をしていただきたくないと強く思っております。
「知らない」に気づき、学び続けることで、子どもたちの役に立てますし、それが自分を成長させ続けることにもつながります。過去の私のように、自分の勝利や自分の思いを実現することだけを追うような利己的な自分は、情けない限りです。
子どもたちのために役に立つ、人のために役に立つ喜びを感じながら、利他的な行動もできる自分になりたいと思っています。利他的といっても、「自己犠牲」を自分の身を削ってしていくのではなく、子どもたちのため、相手のためが最終的には自分のためにもなることを味わいながら、進んでいきたいと思います。
子どもたちのけがはある種、私たち大人へのサインなのかもしれません。今回のオスグッド病についても、必要以上に恐れず、正しく恐れながらも、オスグッドや他のけががあった場合には、日々の活動を見直すことによって、大きなけがを未然に防ぐことができると思います。
「知らなかった」に気づいたとき、そこから学ぶ機会であり、今ある環境をよりよい方向へ進める機会でもあります。「知らない」に気づき、そこから学び、目の前の環境や今の自分を書き換え続けていくことが、目の前にいる子どもたちのためになります。そして、それを見守る保護者のみなさまの気持ちにも応えることになるのではないでしょうか?
長文を最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました!!
この記事が誰かの役に立てることを願っています。また、この記事をきっかけに、できるだけ多くの子どもたちが、けがに悩むことなく、大好きなサッカーを楽しんでつづけてくれるようになることを切に願っております。